3年前、和歌山県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」といわれた会社社長野﨑幸助さん(当時77歳)が急性覚せい剤中毒で死亡した事件で、県警は28日、元妻を殺人などの疑いで逮捕したと発表した。野崎さんは自分で覚せい剤を使用した痕跡がなかったことから、何者かが摂取させて殺害したとみて捜査していた。発生から3年、全国的に話題となった事件は、急転直下の逮捕劇となった。
逮捕されたのは東京都品川区北品川、元妻で会社役員、須藤早貴容疑者(25)。県警は認否を明らかにしていない。発表によると、須藤容疑者は2018年5月、田辺市内の自宅で、当時夫だった野﨑さんに何らかの方法で致死量を超える覚せい剤を口から飲ませ、急性覚せい剤中毒で死亡させた疑い。須藤容疑者は野﨑さんの死後、野﨑さんが代表を務めていた二つの会社の役員に就いていた。
野﨑さんは自宅の寝室のソファーで死亡しているのが見つかった。県警では発生当時から、野﨑さんが自殺を図る動機がないことなどから何者かに致死量を超える覚せい剤を飲まされて殺害された可能性があるとみて捜査。覚せい剤を飲まされたとみられる時間帯に須藤容疑者が自宅にいたことや、事件前、インターネットで覚せい剤について検索していたことがサイバー捜査で判明。須藤容疑者自身が覚せい剤を入手していたことを割り出したことなどから殺意を持って覚せい剤を飲ませたと判断し、捜査を固めて今月26日に逮捕状を請求。28日午前5時14分、捜査員が品川区の自宅で須藤容疑者を逮捕した。身柄を田辺署に移送し、今後、本格的な取り調べにかかる。捜査関係者によると、比較的早い段階で事件の全容をつかんでいたといい、その後の慎重な裏付け捜査などで逮捕に至ったとみられている。
田辺署で会見した德田太志刑事部長は「事件の全容解明に強力に捜査を進める」とし、保田彰捜査一課長は「公判に耐えうるレベルの証拠に達するのに結果として3年かかった」としたが、逮捕の決め手や覚せい剤の入手ルートなどは捜査にかかわることとして明らかにしなかった。
野﨑さんは事件の3カ月前の18年2月に55歳下の須藤容疑者と結婚。5月24日に自宅で死亡しているのが見つかった。自叙伝などから「紀州のドンファン」と呼ばれ、今回の事件も全国からマスコミが殺到するなど大きな注目を浴びた。県警では空のビール瓶2000本を押収して鑑定に出すなど、地道な捜査を続けていた。
元妻の須藤容疑者 白浜空港から田辺署へ
須藤容疑者の身柄は東京の羽田空港から飛行機で南紀白浜空港へ到着し、その後、捜査員の車で田辺署へ入った。
白浜空港や田辺署、署周辺の道路沿いには多くのマスコミが駆け付け、一時騒然となった。白浜空港では先に乗客全員を降ろしたあと、最後に捜査員に囲まれてタラップを進んだ。空港ロビーに出る一般乗客とは別に、飛行場内に降り、横づけされた捜査車両に乗り込んだ。終始うつむき加減で、表情はうかがい知れなかった。
田辺署でも多くの報道陣が待ち構え、須藤容疑者を乗せた白いミニバンは前後を捜査車両に挟まれ、署正面出入り口ではなく一つ北側の信号を曲がり、運転免許センター前を通って裏側から署の駐車場へ入っていった。